写真と言葉森山 大道

Works and Words by DAIDO MORIYAMA

優れた写真家というだけでなく優れた文章家であり語り手でもある森山大道氏。
このページは黒と白カレーのパッケージになったもとの写真と、印刷媒体を通じてこれまでに発表された森山氏の文章や言葉の一部を抜粋して再構成したものです。

国道を疾駆していると、一瞬の出会いののちに、はるか後方に飛びすさっていくすべてのものに、とりかえしのつかない愛着をおぼえて、いいしれぬ苛立ちにとりつかれてしまうことがしばしばである。ことに夕暮れどき、フロントグラスの片隅をかすめて、つと街角に消えていった女の仄白い横顔や、白昼、畑なかに立ちつくす少年のまなざしなどは、いつか見たスクリーンの映像に似て、いつまでもなまなましく目に焼きついている。かいま見、無限に擦過していくばかりのそれら愛しいものすべてを、僕はせめてフィルムに所有したいと願っているのに、欲しいもののほとんどは、いくら撮っても、網の目から抜けこぼれる水のように流れ去ってしまって、手もとにはいつも頼りなく、そして捉えどころのないイメージの破片のみが、残像とも、潜像ともつかない幾層もの層をなして僕の心のなかに沈み込む。

出典:フォト・エッセイ集『犬の記憶』朝日新聞社(1984/3/1)p.32, 33
初出:月刊「アサヒカメラ」1982年6月号

Text and Photo by DAIDO MORIYAMA
©DAIDO MORIYAMA PHOTO FOUNDATION

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