写真と言葉森山 大道

Works and Words by DAIDO MORIYAMA

優れた写真家というだけでなく優れた文章家であり語り手でもある森山大道氏。
このページは黒と白カレーのパッケージになったもとの写真と、印刷媒体を通じてこれまでに発表された森山氏の文章や言葉の一部を抜粋して再構成したものです。

僕は歩きながら、そして自動車のガラス越しに、ひっきりなしにシャッターを押しつづけているわけだから、いちいちピントを合わせたり、構図を決めたり出来るはずもない。露出もほとんどバラバラだし、現像を終えたフィルムを見るまでは、自分にも一体なにが写っているのか、さっぱり見当がつかない。そして、結果的に出来上がった写真は、ブレて、ボケて、荒れて、ゆがんで、さながら悪しき写真のサンプルのようになってしまう。しかし、よく考えてみると、人間は一日中、それこそ無数の映像(イメージ)を知覚しているわけだが、その全部の像に対して必ずしも焦点が合っているわけでもない。時にはボケて見えたり、時にはにじんで見えたりもするわけである。また、ブレにしたところで、一日中活動している人間の視点が、いつも静止しているはずはない。動き、流れて、めまぐるしく移動していることのほうが多いはずである。ということだけで、僕の写真のブレやボケの理屈づけをするわけではないが、僕にとってきわめて単純なそれらの事柄は、実は写真にとって割に重要な原理ではないか、と日ごろ考えているからである。僕にとって、写真とは一枚の美しい芸術作品を作るためのものではなくて、撮っても撮っても撮りきれず追いきれない膨大な世界の断片と、抜きさしならない自己の生とのかかわりのなかに、真のリアリティーを見つけるための、唯一の手段としてあるのだといえる。

出典:写真叢書『写真との対話』青弓社(1985/7/25)p.20
初出:月刊「アサヒカメラ」朝日新聞出版 1970年*月号〈アサヒカメラ教室〉

Text and Photo by DAIDO MORIYAMA
©DAIDO MORIYAMA PHOTO FOUNDATION

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