写真と言葉森山 大道

Works and Words by DAIDO MORIYAMA

優れた写真家というだけでなく優れた文章家であり語り手でもある森山大道氏。
このページは黒と白カレーのパッケージになったもとの写真と、印刷媒体を通じてこれまでに発表された森山氏の文章や言葉の一部を抜粋して再構成したものです。

1825年7月
その、夏の日、フランス・ノルマンディ地方の小都市サン・ルゥ一帯に降りそそいでいた眩い陽光は、あるひとりの男が装置した四角な箱(カメラ・オブスキュラ)のなかのアスファルト板に、八時間もの時間をかけて、じわじわと焼き付けられていった。
そして、その一枚の板に転写された、滲んだように不確かな〈鳩小舎のある裏庭〉の風景は、人間が手に入れた初めての、光と時間の化石となり、そのまま今に残されて在る。
それは、ニセフォール・ニエプスという野望に充ちた初老の発明狂が、もだしがたい長年の夢を果たした瞬間でもあった。彼は、その日、自室の窓外に輝く光景を写し撮り、太陽の描く絵(ヘリオグラフィ)と名付けて、光と時間を石化し、所有に成功したのである。そして、その一枚こそが、人類が持つことを得た、他ならぬ、最初の〔写真〕なのであった。

出典:写真集『サン・ルゥへの手紙』河出書房新社 1990年刊より
初出:同

Text and Photo by DAIDO MORIYAMA
©DAIDO MORIYAMA PHOTO FOUNDATION

ページトップへ