写真と言葉森山 大道

Works and Words by DAIDO MORIYAMA

優れた写真家というだけでなく優れた文章家であり語り手でもある森山大道氏。
このページは黒と白カレーのパッケージになったもとの写真と、印刷媒体を通じてこれまでに発表された森山氏の文章や言葉の一部を抜粋して再構成したものです。

カメラを手によるべもなくヒロの町をほっつく歩くうち、ぼくはしだいに、この町に不思議な愛着をおぼえはじめていた。懐かしい、なぜかいいしれず懐かしいのだ。三階建てがせいぜいの軒の低い街並み。裏路地や町外れの廃れたたたずまい。花や青物や土産品を雑然と並べた広いテント張りのマーケット。そして、ぼくの生まれ年と同年に架けられた旧いアーチ型の鉄橋。
それは、遠い昔のある日に、“たしかにここを歩いていたことがある”といった、どこかぼくの軀の細胞の網目から滲み出てくる奇妙な懐かしさなのである。

出典:フォト・エッセイ集『もうひとつの国へ』朝日新聞出版(2008/9/30)p.213, 214

Text and Photo by DAIDO MORIYAMA
©DAIDO MORIYAMA PHOTO FOUNDATION

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